イーサリアムの課題を解決する新興ブロックチェーン技術 (Polygon, Flow, WAX, Ronin, Palette など)
イーサリアムの課題
現在でも、NFTを支える技術インフラにおいて、イーサリアムは大きな基盤インフラです。NFTが世の中にデビューしたとも言えるきっかけとなった元祖NFTヒットである CryptoKitties もイーサリアム上に構築されたアプリでした。イーサリアムの存在は、クリプトの歴史の大半を占めており、多くの熱狂的なトークン保有者・開発者からなる充実したエコシステムがあり、これまでほぼデファクトスタンダードとしてその地位を築いています。例えば、NFTプラットフォームの大手OpenSeaでは、イーサリアム上のNFTアセットが取り扱われています。
しかし、一方でNFTだけではない、汎用的なブロックチェーンにはいくつか大きな課題があります。
1つ目として、イーサリアムでは一般ユーザーがNFTを移転する際にガス代と呼ばれるネットワーク手数料を暗号資産建てで支払う必要があることです。NFTを扱うためには、ユーザーはガス代のために暗号資産を事前に入手する必要があり、ユーザー利用のハードルが高くなっています。2つ目として、イーサリアムにはNFT以外のアプリケーションも混在していることです。近年では、トランザクション単価の高い DeFi (Decentralized Finance)の拡大により、ガス代が高騰し、ユーザーがガス代においてストレスを感じています。3つ目として、エコシステムのルールメイクに関する合意形成に膨大な時間と労力を要することです。イーサリアムには様々な用途があり、NFTクロスチェーンのようなインフラの整備のハードルは非常に高いです。
これらの課題を解決すべく、NFT特化型の新興ブロックチェーンが生まれています。先程、触れた CryptoKitties も例外ではありません。CryptoKitties を運営するのは Dapper Labs というゲームアプリ会社ですが、Dapper Labs は、CryptoKitties の経験からイーサリアムの限界を感じていて、自社で Flow というブロックチェーンを開発しました。
NFT特化型インフラの取り組み
現時点では、NFT特化型インフラは大きく2つに分類されます。
1つ目は、Layer1 と呼ばれるものです。これは、ブロックチェーンの第一層となる基盤インフラで、イーサリアムやブロックチェーンのレイヤであり、このレイヤーごと新しいブロックチェーンに置き換えようという試みです。2つ目は、Layer2と呼ばれるもので、イーサリアムや他のLayer1の基盤技術をベースにしたインフラです。
Layer1について
Layer1 で有名なプレイヤーとしては、Flowや、WAXが挙げられるでしょう。他には、韓国のKlaytn、チャットアプリで有名なLINEが独自開発しているLINE Blockchain、国産のPalette Blockchainが挙げられます。他にも、ファイナンス特化型で始まった Solanaも、NFTの取り組みを強化しています。
NFT特化インフラの初代プレイヤーとして、最も歴史が長いのは WAX です。これまで、NFTコンテンツのロングテールを形成する 40以上のプロジェクトに信頼されており、直近では MLB の NFTを発行する The Topps Company や、日本でもおなじみのストリートファイターNFTで利用されています。しかし、現在NFT領域にて、イーサリアムに最も近いLayer1プレイヤーは、NBA Top Shot の基盤にもなっている Flowです。Flowは、CryptoKitties や NBA Top Shot を作っている Dapper Labs によって作られたインフラですが、リリースから1年未満で、NFT特化インフラのリーディングプレイヤーになっています。
Layer1のブロックチェーンの比較表は以下の通りです。
開発企業 | Dapper Labs | WAX | Kakao/Klaytn | LINE / LVC | HashPort/Hashpalette |
---|---|---|---|---|---|
ブロックチェーン名称 | Flow | WAX Blockchain | Klaytn | LINE Blockchain | Palette |
運営会社所在属地域 | 米国 | 米国 | 韓国 | 日本/韓国 | 日本 |
独自トークンの名称 | FLOW | WAX | KLAY | LN | PLT |
日本国内での独自トークンの流通 | 無 | 無 | 無 | 有 | 有 |
ブロックチェーンの形式 | パブリック(Permission型) | パブリック | コンソーシアム | プライベート | コンソーシアム |
コンセンサスアルゴリズム | BFT/PoS | BFT-DPoS | I-BFT/VRF-PoS | PBFT/VRF-PoS | I-BFT/dPoS |
開発言語 | Cadence | C++ | Go | 非公表 | Go |
運用主体 | 匿名の複数ノード | 匿名の複数ノード | Klaytnガバナンス評議会 | Unchain (LINE子会社) | パレットコンソーシアム |
発行者のガス代負担 | あり | あり | あり | あり | あり |
利用者のガス代負担 | あり (発行者が負担) | なし | あり | あり (発行者が負担) | なし |
NFTクロスチェーン機能 | なし | なし | なし | なし | あり |
発行者の独自ウォレット作成可否 | 不可 | 可 | 可 | 不可 | 可 |
ガバナンス手法 | Dapper Labsが決定 | WAXが決定 | 評議会によるオンチェーンガバナンス | LVCが決定 | コンソーシアムによるオンチェーンガバナンス |
Layer2について
Flow のようにゼロから新しく Layer1インフラを構築しなくても、既存のLayer1をベースにしたNFT特化型インフラは多数存在します。Layer2インフラは大きく分けて、Child Chain, Side Chain, Rollup の3種類がありますが、今の主流は Side Chainsです。Side Chainでは、イーサリアムと相互連携が可能な自前トークンを活用し、Layer1インフラに頼らない自前のガバナンス体制とセキュリティ体制を構築します。イーサリアム以外のLayer1インフラにも対応させることができることや、Layer1/Layer2 間の照合をSide Chainsのアップデート時にのみ限定できる点が特徴です。
Layer2の主要なプレイヤーとして Polygon が挙げられます。Polygonは、現状唯一実働しているイーサリアムソリューションであり、イーサリアムとの相性の良さからNFTを活用するゲーム事業者だけではなく、スケーリングニーズを抱えるDeFi大手事業者による活用も進んでいます。Polygonは、Side Chainsのみならず、今後はイーサリアム対応している、全Layer2のインフラを束ねるアグリゲーションツールを作る予定であり、NFTを活用したゲーム領域およびNFTと相性が良い金融領域において、すでに良好なポジションを築きつつあります。
Polygonは複合的なアプローチでNFT領域で存在感を強めていますが、対極にあるのが、Ronin と呼ばれるSide Chainsです。Ronin は、Axie Infinity を作ったSkye Mavis 社の自社インフラです。Ronin を導入することで、Axie Infinity を爆発的にヒットさせ、ゲームと金融の融合というトレンドを作りました。
まとめ
以上、現在注目すべき新興ブロックチェーンおよびサイドチェーンの技術について、主要なものを取り上げてみました。 これまで、何度も述べてきましたが、イーサリアムを利用する際、ガス代の支払いは、ユーザビリティ上とても課題だと考えています。これらの技術が、どのようにイーサリアムの課題を解決しているのか、別途より深堀りして調べてみたいと思います。