OpenSeaをはじめとするNFTマーケットプレイスが大きく加速する分散化のトレンドとは?

ビジネス   Posted on 2021/11/08 00:56 by syamasaki
OpenSeaをはじめとするNFTマーケットプレイスが大きく加速する分散化のトレンドとは?

ブロックチェーンの出現と共にそのブロックチェーンのネイティブ通貨であるBTCやEtherが現れました。イーサリアム上のERC20トークンの出現により数多くのERC20トークンが現れ、さらに法定通貨と取引可能な取引所が乱立したことで、世の中は通貨の民主化が起きたと一大ムーブメントとなりました。

NFTの出現によって、1点もののデジタルアセットはトレーダブルなものとなりました。ここに先程の暗号資産(法定通貨でも構いませんが)と組み合わせれば、1点もののデジタルアセットに価値を持たせることができます。

両方ともブロックチェーン技術の上に成り立つものですが、ブロックチェーンには中央管理者のいない自律分散型の設計思想が根本にあります。暗号資産の出現により、通貨自体は分散化されましたが、取引所自体は依然中央集権的な構造を持っています。一方で、NFTを売買できるOpenSeaをはじめとするNFTマーケットプレイス(NFTの取引所)では、この分散化の流れが大きく推進されています。

本記事では、NFTマーケットプレイスで起きている分散化のトレンドについて、実際にOpenSeaやRaribleの仕組みを理解しながら、説明していきたいと思います。

OpenSeaの出品NFTは独占販売ではない

NFTマーケットプレイスと聞いて、出品されているNFTは、そのマーケットプレイスにて独占されている、もしくは、マーケットプレイスが取り扱うNFTコントラクトに登録されている、と思っている方はいるのではないでしょうか。

確かに OpenSeaの場合、ウェブアプリもしくはモバイルアプリ上でNFTを作成した場合、OpenSeaが提供する OpenSea Shared Storefront (OPENSTORE) というNFTコントラクトにてNFTが発行されます。実際のコントラクトはこちらで確認できます → https://etherscan.io/address/0x495f947276749ce646f68ac8c248420045cb7b5e

しかし、売上ランキング上位にあるようなアカウントのNFTは、自身でNFTコントラクトを作成し、NFT発行しているケースが多いです。

具体例を見ていきましょう。

これは、Bored Ape Yacht Club の NFT で、OpenSeaに掲載されている画面になります。URLは、https://opensea.io/assets/0xbc4ca0eda7647a8ab7c2061c2e118a18a936f13d/9187 になります。

BAYCのNFT掲載@OpenSea
OpenSea Exchangeのコントラクト Overview

そして、同一NFTが、Raribleでも掲載されています。URLは、https://rarible.com/token/0xbc4ca0eda7647a8ab7c2061c2e118a18a936f13d:9187?tab=details になります。

BAYCのNFT掲載@Rarible
OpenSea Exchangeのコントラクト Overview

URLを見てお気づきの方もいると思いますが、URLが非常に似ています。これは、NFTコントラクトアドレスが 0xbc4ca0eda7647a8ab7c2061c2e118a18a936f13dの、トークンID 9187 のNFTとなります。

実際に etherscan で確認してみると、BAYCによってデプロイされたNFTコントラクトであることが分かります。https://etherscan.io/address/0xbc4ca0eda7647a8ab7c2061c2e118a18a936f13d

つまり上記のBAYCのNFTは、どこのマーケットプレイスにも従属することなく、ただイーサリアムブロックチェーン上に存在しているだけなのです。

OpenSeaをはじめとするNFTマーケットプレイスは、ブロックチェーン上にあるNFTをあたかも分散型のマスタデータベースに見立てて、自社サービスに取り込んでいるのです。

OpenSeaの出品は完全にオープン

既にイーサリアム上にデプロイされたNFTをOpenSeaで掲載するのは非常に簡単です。

BAYCの例でもありましたが、https://opensea.io/assets/<contract address>/<token ID>をブラウザで表示すれば、然るべきNFTの情報がOpenSeaに読み込まれ掲載できます。メタ情報については、OpenSea独自の規約があるようですが、それに沿うとより表現力ある形でNFTページを作成できます。(参照 https://docs.opensea.io/docs/3-viewing-your-items-on-opensea

また、NFTコントラクト自体を Collection として登録するには、以下のページにアクセスして、「Live on a mainnet」を選択します。

デプロイ済みのNFTコントラクトの取り込み方@OpenSea Step1
デプロイ済みのNFTコントラクトの取り込み方@OpenSea Step1

するとコントラクトアドレスを入力するフォームが出現するので、然るべきブロックチェーンを選択の上、コントラクトアドレスを入力します。

デプロイ済みのNFTコントラクトの取り込み方@OpenSea Step2
デプロイ済みのNFTコントラクトの取り込み方@OpenSea Step2

非常に簡単にデプロイ済みのNFTをOpenSeaに取り込めることが分かります。

暗号資産取引所の構造

NFTマーケットプレイスの構造について論じる上で、暗号資産取引所の構造と比較することは有益かと思います。以下に暗号通貨取引所と通貨の関係を図式化しました。

暗号資産取引所と通貨の関係
暗号資産取引所と通貨の関係

ERC20トークンが出現したときは、ERC20トークンのスマートコントラクトと一緒に、ERC20トークンのクラウドセールスマートコントラクトも現れ、誰もが通貨を発行し、そしてその通貨を例えばETH建てで簡単に販売することができました。いわゆるICO (Initial Coin Offering)です。ただ、これには詐欺まがいのトークンが多く含まれ多くの国でICOは禁止されました。

ICOが禁止となったこともあり、国から認められた暗号資産交換所にてトークンを上場させるスキーム IEO (Initial Exchange Offering) が現れます。現在、トークンの一般販売は IEO によるものが一般的でしょう。( 参考サイト:Coincheck IEO )

暗号資産取引所では、様々なブロックチェーンのネイティブ通貨(BTC, ETH, XRP, etc.)やERC20トークンが取引対象の通貨として登録されています。ブロックチェーン自体の根本思想は自律分散型ではありますが、今の主要な取引所は中央集権的に作られています。具体的には、取引所に中央集権的なアカウントデータベースが存在し、各通貨についてもブロックチェーン上ではなく、インターナルな通貨データベースが存在しています。取引所内の売買情報は、リアルタイムにブロックチェーンに記録されているわけではなく、インターナルなデータベースのトランザクションにしか過ぎず、通貨やトークンをExportしたタイミングでオンチェーンに記録されます。

暗号資産取引所は取引対象となる通貨の選定には、厳正な審査を行っています。様々なブロックチェーンネイティブ通貨や、イーサリアムのようなブロックチェーン上のERC20トークンを見極め、審査をクリアしたものだけが上場し、取引が許されます。新たなブロックチェーンの出現や、ERC20トークンの出現により、通貨自体が民主化したのは、分散化の流れと言えそうですが、取引所の構造としては、依然中央集権の要素が強いことが分かります。

NFTマーケットプレイスの構造

暗号資産取引所とのアナロジーで、OpenSeaをはじめとするNFTマーケットプレイスとNFTの関係を図式化したのが以下になります。

NFTマーケットプレイスとNFTの関係
NFTマーケットプレイスとNFTの関係

暗号資産の出現時には ICO という 個人がERC20トークンを販売する手法が出てきましたが、NFT (ERC721, ERC1155) については ICO のような手法は特に話題になっていません。代わりに、NFT を販売する数々のNFTマーケットプレイスが出現しました。

暗号資産取引所とのアナロジーだと、暗号資産取引所の通貨と同じレイヤーに来るのは、NFTマーケットプレイスの場合、個別のNFT (スマートコントラクト) と言えるかと思います。ここには、CryptoPunks や BAYC のような NFTブランドが入ります。また、暗号資産取引所で通貨が取引できるようになることを通貨の上場と言うならば、NFT マーケットプレイスでNFTが取引できることも、NFTの上場と呼んでしまっても良いかもしれません。

注目すべきは OpenSeaをはじめとする NFTマーケットプレイスは、ブロックチェーン上にデプロイされている ERC721 もしくは ERC1155 NFTトークンを何でも取引可能なNFTとして取り込んでいるのです。これは実はよく考えると凄いことだと思います。ERC20トークンではないですが、ERC721 もしくは ERC1155 であれば上場させるから、どうぞご自由に売買してください、ということですから、NFTの “ICO” プラットフォームみたいなものです。暗号資産取引所が暗号資産やトークンを厳正に審査している点と大きく異なります。

また、NFTマーケットプレイスは、中央集権的にはNFTを実装しているのではなく、あくまでオンチェーンのNFTに対して、直接的にメソッドを実行することで、NFTの移転も行っています。一方で、国内初のNFTマーケットプレイスである Coincheck NFT (β版) は、取引所の中央集権的な構造を踏襲しているように見受けられ、OpenSeaのような分散化はなされていないように見えます。

OpenSeaを始めとする NFTマーケットプレイスは、暗号資産取引所に比べて、1) 取り扱うNFTをインターナルなマスタデータベースで表現せずに、直接ブロックチェーン上のスマートコントラクトと通信をしている、2) 上場審査は特に設けずに、規格を満たすNFTは全て取引可能にしている、という2点において、大きく自律分散のトレンドを促進させていると言えるかと思います。OpenSea のコアロジックとなる、NFTの売買プログラムはスマートコントラクトとして公開されていますし、OpenSeaが中央集権的に提供する機能は極めて少ないことが分かります。

やはり、ブロックチェーンの文脈では、アプリケーションが進化する際、自律分散化(decentralized)が進むようなトレンドがあるように思われます。現時点では、そんなの中央集権的に取り組んだ方が便利だよって考えられているようなものが、実は長い目で見るとそれは古い価値観に縛られているなんてケースが結構あるのかもしれません。

ちなみに、暗号資産取引所が辿った歴史を、NFTマーケットプレイスも辿るのであれば、もしかしたら 上場させる NFTコントラクトを厳正に審査しなさい、という規制がなされる可能性はあるかもしれません。既に取引がされているNFTコントラクトは審査の対象にならない、とかあるかもしれないので、どんなNFTでも構わないから、ERC721 / ERC1155 のNFTコントラクトをデプロイして、OpenSeaを始めとするNFTマーケットプレイスにとりあえず掲載しておく、というのはありなのかもしません。

ビジネスの発展性について

上記のNFTマーケットプレイスとNFTの関係のチャートを見ているといくつかのビジネス的な発展性があるように思えます。

今後、必ず大量に現れるだろう NFTブランドですが、このNFTブランドの信頼性をみんな知りたがるだろう、ということです。OpenSeaはその辺を保証してくれないので、CryptoPunksの画像を貼っただけの詐欺NFTなんてものを作るのは容易です。このコントラクトアドレスのNFTブランドは信頼できるのか、といった情報は必要とされるでしょう。

NFTと相性が良いものとして、アート、ゲームキャラクターやアイテム、トレーディングカード、が既に話題になっていますが、私はNFT化できるものはもっと広範囲に及ぶと考えています。トレーダブルなデジタルアセットなら何でも良いのです。どんなデジタルアセットなら金銭価値を伴うNFTにできるか、を考えるのは、まだまだチャンスがあるでしょう。しかも、今のNFTマーケットプレイスのUIは、先程あげたような例のNFTがフィットするものになっていますが、もっと発想を広げても良いと思います。

例えば、下世話な例になるかもしれませんが「A子ちゃんと週1回、3時間デートできる権利」みたいなものだってNFT化できると思うのです。

A子ちゃんとデートしたい男性は NFTマーケットプレイス でこのNFTを購入する。そして、特設サイトに飛ぶと、metamaskでNFTの所有権を証明できれば、1回のデート代をETH建てで支払い、デートの予定をカレンダー登録できる。当日は、アプリでNFTの所有権を証明し、デート開始。

数回デートしたら、やっぱり別の子ともデートしたいなと思って、マーケットプレイスで「A子ちゃんとのデート権利」を販売し、代わりに「B子ちゃんとのデート権利」を購入。B子ちゃんとデートしてみたら、これはメチャクチャ良い!と思って「B子ちゃんとのデート権利」をしばらく持っておくことを決意。

「B子ちゃんとのデート権利」が値上がりしたら嬉しいので、B子ちゃんがどれだけ素晴らしいかの布教活動も行う。その一環として、NFTコントラクトのレビューサイトに、自分が持っているNFTの素晴らしさも書いておく。B子ちゃんとのデート権利は、物理的にB子ちゃんのスケジュールの制約があり、数に限りがある。一方で、B子ちゃんの評判は上がり、マーケットプレイスでB子ちゃんとのデート権利の値段が上がっていく。そろそろ新しい子を発掘するか、という気になり、B子ちゃんとのデート権利を高値で売却する。

なんてストーリーがあるかもしません。

まとめ

ちょっと話が飛躍したかもしませんが、今回は NFTマーケットプレイス が分散化のトレンドを大きく加速している、という点について説明しました。

NFTマーケットプレイスが、暗号資産取引所と違う、注目すべき点は以下の2つです。今後、ますますブロックチェーンを活用したサービスは自律分散化のトレンドに乗ることになるかと思います。

  • 取り扱うNFTをインターナルなマスタデータベースで表現せずに、直接ブロックチェーン上のスマートコントラクトと通信をしている
  • 上場審査は特に設けずに、規格を満たすNFTは全て取引可能にしている

また、NFT関連ビジネスの発展性についても、ごく一部ではありますが可能性について言及しました。

この記事を呼んで、DAppsの自律分散化のトレンドや、NFT関連ビジネスの発想の役に立てば嬉しいです。

編集者

syamasaki

あるベンチャー企業(現マザーズ上場)のCTOを務め、その後数々のスタートアップ企業のCTOやリードエンジニアを担当。最近は、ブロックチェーンに興味を持ち、トークンエコノミープロジェクトにも参画。東京工業大学大学院、情報理工学研究科卒。NFTを中心にビジネスだけでなく技術的な面も深堀りながら解説します。

Twitter: @0xsyamasaki
(運用し始めたばかり)